映画『雨に唄えば』(原題:Singin’ in the Rain)は、1952年に公開されたアメリカのミュージカル映画です。ジーン・ケリーとスタンリー・ドーネンが共同監督を務め、ジーン・ケリー自身が主演も担当しました。物語はサイレント映画からトーキー映画へと移り変わる1920年代末のハリウッドを舞台に、映画業界の変化と混乱、俳優たちの奮闘をユーモラスかつロマンティックに描いています。時代背景を巧みに織り込んだストーリーは、今なお多くの映画ファンに感動と笑いを届け続けており、ミュージカル映画の頂点とも称されています。
あらすじ
1920年代後半、映画界はサイレントからトーキーへと大きく変わりつつありました。サイレント映画の人気スター、ドン・ロックウッド(ジーン・ケリー)は、相棒で音楽家のコズモ・ブラウン(ドナルド・オコナー)とともに名声を築いていました。しかし、時代の流れは音声付き映画へと突き進み、スタジオも対応を迫られます。
そんな中、ドンの共演女優リナ・ラモント(ジーン・ヘイゲン)は、美貌こそ一流ながら、その甲高い声が致命的な弱点でした。新作トーキー映画『踊る騎士』は、リナの声が観客に不評で危機的状況に陥ります。そこでドンは、偶然出会った舞台女優キャシー・セルデン(デビー・レイノルズ)にリナの吹き替えを依頼します。キャシーの美しい声と才能に惹かれたドンは、仕事を共にしながら彼女との恋を育んでいきます。やがて映画の完成と共に、真実が明るみに出ていきます。
主要キャストとキャラクターの魅力
- ジーン・ケリー(ドン・ロックウッド):映画スターとしての華やかさと努力家としての姿を併せ持ち、ダンスと歌の才能で困難を切り開いていく主人公。
- ドナルド・オコナー(コズモ・ブラウン):陽気でユーモアに富んだ音楽監督。軽快なダンスとコメディセンスで作品に欠かせない存在。
- デビー・レイノルズ(キャシー・セルデン):新人ながら芯の強さと優しさを兼ね備えた女優。吹き替えを通じて才能を開花させると同時に、ドンとのロマンスも育んでいく。
- ジーン・ヘイゲン(リナ・ラモント):美貌に恵まれながらも声に難がある高慢な女優。物語にコミカルなスパイスを加える絶妙なキャラクター。
名シーン満載の演出と音楽の魅力
本作の最大の見どころは、なんといっても音楽とダンスの融合です。全編を通して繰り広げられるミュージカルナンバーは、観客を夢の世界へと誘います。なかでもジーン・ケリーが傘を片手に雨の中で踊る「Singin’ in the Rain」のシーンは、映画史に残る名場面として語り継がれています。
また、「Good Morning」や「Make ‘Em Laugh」など、心弾む楽曲が数多く盛り込まれ、演者たちの卓越した表現力と演出の巧みさが際立っています。映画そのものの舞台裏や製作の苦労を描きながら、観る者に笑顔と感動を届ける、まさに至高のエンターテインメントです。
舞台裏に隠された感動のエピソード
- ケリーは「Singin’ in the Rain」のシーンで、実は39度以上の高熱を出していた状態で撮影に臨んでいました。演技中の熱演からはその苦労を感じさせない完璧なパフォーマンスが光ります。
- 「Make ‘Em Laugh」はドナルド・オコナーの身体能力と表現力が爆発する場面。シーンの直後に彼は疲労困憊で入院を余儀なくされたという逸話もあります。
- ダンス未経験だったデビー・レイノルズは、フレッド・アステアの指導を受けながら懸命に練習し、華やかなステージシーンを成功させました。
- スタジオ内での吹き替えや音声収録の様子など、当時の映画制作現場をリアルに描写することで、観客にメディアの進化を感じさせる仕掛けが盛り込まれています。
関係者の代表作
- ジーン・ケリー:『巴里のアメリカ人』『踊る大紐育』『海の上の女王』
- スタンリー・ドーネン:『七人の花嫁』『恋愛準決勝戦』『いつも2人で』
- ドナルド・オコナー:『フランシス』シリーズ『嘘つき男爵』
- デビー・レイノルズ:『タミーと独身者』『不思議の国のアリス』『カーニバル・ストーリー』
まとめと感想
『雨に唄えば』は、ミュージカル映画の枠を超えて、映像芸術としての魅力を最大限に発揮した傑作です。時代の変化に翻弄される登場人物たちの奮闘や成長を描くことで、普遍的なメッセージと希望を伝えてくれます。音楽、ダンス、ストーリー、そしてキャスト全員の熱演が織りなす総合芸術は、世代を超えて愛され続けています。
まだ観たことのない方も、久しぶりに鑑賞する方も、この機会に改めて『雨に唄えば』の世界に触れてみてはいかがでしょうか。その輝きは、今も変わらずスクリーンに降り注いでいます。
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